金色に染まる小さき人と鹿(29)
夕方、若草山に登る。上るにつれて光が金色を増す。一重目から奈良を見はるかすと、あわく霞み、野のあちこちから煙が立ち上っている。万葉集の歌を思い出す。よく見ると炊飯の煙ではなく、野焼きであった。長男が望遠レンズで自分が住んでいるマンションを探す。マンションから山が見えるのだから、山からも見えるはずだという。かなり時間がかかったが、見つける。
金星から地球を見たらどう見えてるんだろうと言ってた話を思い出す。
知的生命体がいるってわかるんだろうか。
帰ってからユイスマンスの『さかしま』とボードレールの『悪の華』をパラパラと読む。
フランス文学は都市を煮詰めに煮詰めきって超濃縮したもの?
バターを何時間も煮て作ったギーのようなもの?
江戸の物語文学が「遊び」と「笑い」と「劇」の極致に達したのとは別の進化を遂げたのはなぜだろう。
まだまだ知らない世界がいっぱいある。