山水路考

本の記録です。

この珈琲はいずこより来るドミニカ共和国から来る

本についての雑談会で、珈琲がのみたくなる本は? という話題が出た。

寺田寅彦がまっさきに思い浮かぶ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

やはり人造でもマーブルか、乳色硝子の卓子の上に銀器が光ってい

て、一輪のカーネーションでも匂っていて、そうしてビュッフェに

も銀とガラスが星空のようにきらめき、夏なら電扇が頭上に唸り、

冬ならストーヴがほのかにほてっていなければ正常のコーヒーの味

は出ないものらしい。コーヒーの味はコーヒーによって呼び出され

る幻想曲の味であって、それを読みだすためにはやはり適当な伴奏

もしくは前奏が必要であるらしい。銀とクリスタルガラスとの閃光

アルペジオは確かにそういう管弦楽の一部員の役目をつとめるも

のであろう。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「珈琲哲学序説」

『銀座アルプス』(寺田寅彦著、角川ソフィア文庫、319p)

 

銀座アルプス (角川ソフィア文庫)

銀座アルプス (角川ソフィア文庫)

  • 作者:寺田 寅彦
  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: 文庫