この珈琲はいずこより来るドミニカ共和国から来る
本についての雑談会で、珈琲がのみたくなる本は? という話題が出た。
寺田寅彦がまっさきに思い浮かぶ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やはり人造でもマーブルか、乳色硝子の卓子の上に銀器が光ってい
て、一輪のカーネーションでも匂っていて、そうしてビュッフェに
も銀とガラスが星空のようにきらめき、夏なら電扇が頭上に唸り、
冬ならストーヴがほのかにほてっていなければ正常のコーヒーの味
は出ないものらしい。コーヒーの味はコーヒーによって呼び出され
る幻想曲の味であって、それを読みだすためにはやはり適当な伴奏
もしくは前奏が必要であるらしい。銀とクリスタルガラスとの閃光
のアルペジオは確かにそういう管弦楽の一部員の役目をつとめるも
のであろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「珈琲哲学序説」