山水路考

本の記録です。

『なんで洞窟に壁画を描いたの? 美術のはじまりを探る旅』

 

多読ジムシーズン09で、千夜千冊エディション『全然アート』を読む。一番、注意のカーソルが動いたのが、古代の洞窟壁画である。
ネアンデルタール人のメッセージが洞窟に遺されているなんて!
中学生を主人公に物語仕立てで、美術のはじまりのなぞに少しずつ迫っていく。
ラスコーの洞窟の見取り図あり。実はとても奥まで続いていることを知る。
3Dの壁に、絵を描くことの難しさ。

古代の人びとはそれでも絵を描くことを「必要とした」。それはなぜだろう。
いつかフランスに行って、精密に複製された洞窟壁画を見てみたいと思った。

『鹿男あをによし』万城目学

奈良が舞台なので読む。

ドラマ化もされていて、劇中で出てきた鹿ロボットが市の観光案内所に置かれていた時から気になっていた。

なるほど、坊ちゃんと奈良とファンタジーを組み合わせるとこうなる!

ほぼ前知識無し、後半は結末が気になって一気読み。

キャラクターの苗字にも企みあり。

私は好き。

 

 



 

『行為の哲学』有福孝岳

学生時代、道元を読むゼミでお世話になった有福先生の本を、閉店間近の古書店で見つけ、買う。

西洋哲学を“行為’’をキーワードに概観する本。

『行為の哲学』有福孝岳,情況出版

目次

行為とは何か

行為の歴史性

倫理とはなにか

実践哲学の復権

支配の基礎とその逆説

 

発行日を見ると1997年。ちょうど学生時代と重なっていた。

有福先生は僧侶で西洋哲学研究者でいらっしゃった。

この本を書き終えたタイミングでのゼミだったのか。

 

 

 

 

『チョウはなぜ飛ぶか』日高敏隆

1975年刊行の本。

日高敏隆さんによる、アゲハチョウの行動のナゾについての仮説→実験→検証の軌跡が、いきいきと叙述されている。

 

なぜアゲハチョウは決まった道を通るのか。

オスはどうやってメスを見つけるのか。

 

成功した研究ではなく、まだ未知が残っていて試行錯誤を続けている題材を書きたかったとあとがきにある。

めちゃくちゃおもしろくて、子どもたちに時々音読や要約をして共有しながら読みおえた。

 

理科の教科書が苦手な人にこそおすすめです。

 

 

 

 



 

「開国」とは、国内ルールを棄てて国際ルールで生きていくと決めること? 『日本の失敗』松本健一

8月。戦時中に生まれてたらぜったい軍国少女になってただろうなーと思います。
田辺聖子さんのエッセイを読んで、ハッとしたことがあります。

ようやく読んだ松本健一さんの本、終章近くに坂口安吾が出てきます。
法隆寺とか桂離宮に日本の美が宿っているのではない。
生きよ、堕ちよ。
「道徳」や「正義」こそがもっとも激烈な戦争を生む。

 

 

『日本の失敗』松本健一岩波現代文庫


引用1:アメリカがヨーロッパによって文明国とよばれるようにな
    ったのは、一八九八年(明治三十一年)の米西戦争に勝ち、
    スペイン領だったフィリピン、グアム、プエルトリコを獲
    得したときのことだった。

引用2:日本がヨーロッパによって文明国とよばれるようになった
    のも、一九〇四-〇五年(明治三十七年―三十八年)の日
    露戦争に辛うじて勝ち、南樺太を獲得し、韓国の保護権や
    遼東の租借権を手に入れてからだった。

引用3:むしろ、そのヨーロッパの力(帝国主義)のまえに屈服し
    てしまう、アジアの「弱さ」が罪なのだ、と主張するので
    ある。(82p)

引用4:ここにある「日本の満蒙領有は……中国人自身の幸福であ
    る」という発想は、帝国主義者あるいは植民地主義者に典
    型的なものだろう。(108p9

引用5:石原莞爾という情熱的な革命的ロマン主義者で天才的な戦
    略家なしには、「満州国」が大陸にうみだされることはな
    かった。122p

引用6:スチムソン(=アメリカ)は、ここに至って、日本が1928
    年の「不戦条約」および1922年の「支那ニ関スル九カ国条
    約」という国際法を破った、と明らかに通告したのである。161p

引用7:その意味で、二・二六事件の発端はこのロンドン(海軍軍
    縮)条約をめぐる統帥権干犯問題にあった、ということも
    できよう。181p

引用8:いいかえると、政治家はすべからく国民の生活とそれによ
    って生まれるエトス(生活感情)を捉えた政治をおこなわ
    ねばならない。208p

引用9:ランケのいわゆる「大なる列強の一」になった日本は、当
    然、「世界に面して立つ」日本の原理を確立せねばならな
    い。242p

引用10:わかりやすくいうと、天皇制とは、日本という“田舎も
    のの誇り”であり、だからこそ時代とともに変わりゆく国
    家の法律や制度や宗教といった権力的な機構と無縁に生き
    残るだろう、と肯定されたのである。252p

引用11:「日本史」が直接「世界史」に関わる、という事態が出
    来していた。258p

 

柳田國男を読み、図解する2日間/『遠野物語・山の人生』

 

 

2021年度前半の輪読座は柳田國男

月に2日間、柳田國男を集中して読み、図解する。これぐらいしないとなかなか読めない巨大な人物だということが読むプロセスでわかってきた。

民俗学者、方言研究者、口承文化の収集者というイメージがあるが、もともとは農政を志した人であった。農政研究と方言研究、一種合成としての一国民俗学。関係がほんの少し見えてきた。

edist.isis.ne.jp